鳳龍弐号の熱制御方法と熱環境試験について説明しています。
宇宙では太陽光が当たる時(日照時)と当たらない時(蝕時)があります。
日照時には人工衛星の温度も上昇し、蝕時には人工衛星の温度は低下します。
宇宙環境は真空且つ-269℃(4K)の世界であり、人工衛星にとって極限環境となります。
そのために、熱制御系では人工衛星の熱設計を行い、適切な温度に維持する事が目的となっています。また、宇宙熱環境を模擬した熱環境試験の環境作りも私達熱制御系の仕事なります。
図1, 宇宙熱環境
熱設計では、外表面の表面材料を選定、構造設計、シミュレーションを行いました。以下が実際の熱設計の流れとなります。
図2 熱設計の流れ
外表面の表面材料としは、±XZ面は金属表面加工(アロジン処理)、±Y面は黒体塗料(ケミグレイズZ306)を採用しました。
図3 黒体塗料で処理した面と金属表面処理した面
構造設計ではバッテリボックス内の断熱材、ヒータを搭載し低温環境下でも耐える設計を行いました。
図4, バッテリボックス内のヒータ
シミュレーションでは衛星温度解析を行いました。温度解析では節点解析と呼ばれる方法を採用し、衛星各パネル6点、衛星支柱4点、基板1点、バッテリ1点の計12節点でそれぞれの温度解析を行いました。
構造設計ではバッテリボックス内の断熱材、ヒータを搭載し低温環境下でも耐える設計を行いました。
図5, 節点分割
シミュレーションの内容としては打ち上げから衛星分離までの打ち上げ環境と宇宙環境の2つ解析を行い、衛星の動作温度範囲に収まっているかを確認することです。
解析した結果の各面での温度予測を図6、図7に示します。
表1、バッテリ仕様 | ||
最低(℃) | 最高(℃) | |
衛星パネル | -24 | 50 |
衛星支柱 | -7 | 44 |
基板平均 | -4 | 42 |
バッテリ | -3 | 39 |
図6, 打ち上げから衛星分離までの温度予測
図7, 宇宙上での温度予測
これまで①~⑤の試験をエンジニアリングモデル、プロトフライトモデル、フライトモデルに対して行ってきました
① 熱衝撃試験
急激に温度を変化させるサイクルを行い、外板部品の破壊や電子機器の半田にクラックが生じないことを確認する試験(コンポーネント単体)
図8, 熱衝撃試験装置
図9, ±100℃温度制御を行っている様子
② 熱サイクル試験
衛星の電源を入れた状態で低温~高温のサイクルを行い、熱によって衛星に不具合が生じないかを確認する試験
図10, 熱サイクル試験装置
③ 熱平衡試験
理想熱環境を作り出し、数学モデルによる解析値と実験値との比較試験。
→この試験は多くの試験条件で試験を行い、複数の試験結果と解析結果を比較することによって数学モデルのパラメータを調整する。
図11, 熱平衡試験装置
④ 熱真空試験
真空環境且つフライト予測温度から負荷を与えた熱環境で衛星が正常に動作することを確認する試験
→実際の宇宙環境を模擬し、人工衛星の全機能を確認するため非常に規模の大きな試験である。また環境試験の中で一番不具合が発見される試験でもあり衛星開発の試験では一番重要な試験。
図12, 熱真空試験
図13, 試験中の様子
⑤ ベーキング試験
衛星をある一定の温度で焼き、不要なガスを排出する試験。
図14, ベーキング試験