Principal Investigator Message

実施責任者からのメッセージ

ご挨拶

皆様におかれましては、平素から鳳龍四号の開発にご協力いただき、誠にありがとうございます。鳳龍四号の打ち上げを目前に控え、あらためて御礼申し上げます。

鳳龍四号は2012年5月18日に打ち上げられた鳳龍弐号を継承する衛星です。鳳龍四号の特徴を一言でいいますと、宇宙環境技術ラボラトリーで行っている研究を宇宙空間で実施するための実験衛星であり、「実験室を宇宙にもっていった衛星」ということになります。最大の目的は、宇宙空間で発生する放電現象をカメラでとらえると共にオシロスコープで電流の波形をとることにあります。このことは地上の実験室では、いつも普通に行っているのですが、宇宙空間で行うことに意味があります。地上の実験室と宇宙は様々な違いがあります。地上では真空容器の壁がありますが、宇宙は360度の開放空間です。その他にも秒速8kmで飛んでいるとか、太陽光を直接に受けているとか、様々な違いがあります。そのような違いがある中で、果たして地上の実験室で普段見ていることが、宇宙でも実際に起きているか見てみようというのが、今回の実験の目的です。

JAXAやNASAや世界中の宇宙機関が、「宇宙でおきる放電はこんなものだろう」と予測して、地上で放電試験を行い、放電でも壊れないことを確認した上で人工衛星を打ち上げています。しかし、驚いたことに、宇宙空間で起きる放電を実際に見た人はいません。むろん、放電の検知を電圧のパルス等を利用して宇宙空間で行ってはきましたが、放電がどこで起きているとか、放電が起きた時にどんな電流が流れるかとか、を50年を超える人工衛星の歴史の中で実際の宇宙空間で調べた例はありません。一度でいいので、宇宙で起きていることと地上で起きていることが同じであることを確認する必要があります。実は、オシロスコープを搭載した人工衛星というのも今迄になく、今回はオシロスコープとそれに連動したカメラを自作しており、もしうまく動けば九工大の高い技術力を世界に示すことができます。今回、鳳龍四号が放電の画像を取得し、電流波形をとることができれば、世界で初の快挙となります。

この実験が成功することによって、現在の人工衛星で突然起きる放電事故の防止や、将来の高電圧を使うことが必須の惑星探査や宇宙ホテル・宇宙工場・太陽発電衛星の実現に貢献することになります。これは、前の鳳龍弐号が果たした役割と同じではありますが、鳳龍四号はそれを更に一歩進めたものとなります。

鳳龍四号のもう一つの特徴は、世界でも例を見ない多国籍チームによる衛星開発だということです。18ヶ国の人間が約2年間の衛星開発に参加しました。これだけの国の人間が衛星作りに参加するというのは、大学発超小型衛星としては世界でも他に例をみないだろうと思います。この特徴は、本学が行っている大学院での宇宙工学国際コースの存在によります。国際コースでは、国連とも連携しながら、超小型衛星開発を足がかりに宇宙参入を図ろうとする途上国・新興国からの学生を積極的に受け入れています。日本人学生との共同作業を行う中で、彼らは衛星づくりの実際を現場で学びました。留学生の諸君が今回の衛星開発で培ったノウハウを母国に持ち帰り、母国の宇宙プログラムの立ち上げに活かしてくれることを期待しています。また、日本人学生も、今回体験した普通にはない異文化体験を今後のキャリアに是非活かしてもらいたいと思っています。

最後に、今回の衛星開発は日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(S)「宇宙システムの高電圧化に向けた超小型衛星による帯電・放電現象の軌道上観測」の支援を受けて行われました。その他、ご支援・ご助力いただいた方々は多々ございますが、別紙にてまとめてお礼申し上げます。

2016年 2月11日

九州工業大学 宇宙環境技術ラボラトリー 施設長

趙 孟佑